#15 YUMEGAOKA SUNDAY BREWING

神奈川県相鉄いずみ野線「ゆめが丘駅」。かつて1日の乗降者数が5,000人に満たなかったこの小さな駅が、今、大きな賑わいを見せている。その理由は、2024年7月に開業したショッピングモール「ゆめが丘ソラトス」の登場だ。

「ゆめが丘ソラトス」は、ゆめが丘駅直結の好立地に加え、横浜市営地下鉄ブルーライン「下飯田駅」からも徒歩圏内とアクセスも良好。総面積約42,700㎡の広大な敷地には、約130店舗が軒を連ね、ファッション、飲食、生活雑貨、そしてエンターテイメント施設まで多岐にわたるサービスが提供されている。

そんな多彩なショップが並ぶ1階フロアに、ひときわ目を引く存在がある。500㍑の醸造タンクが鎮座し、ガラス越しにビールの醸造工程を覗けるブリューパブ「YUMEGAOKA SUNDAY BREWING(以下、サンデーブルーイング)」だ。訪れる人々の目を引くこのブルワリーは、オープン以来、地元住民やショッピングモールの来訪者に新鮮なビール体験を提供し続けている。

「サンデーブルーイング」を手掛けるのは、スイベルアンドノット代表取締役の見木氏。彼は2018年、東京都武蔵小金井に3坪のナノブルワリー「26K Brewery」を設立し、クラフトビール業界に参入。その後、ゆめが丘ソラトスで新たな挑戦として「サンデーブルーイング」を立ち上げた。

ゆめが丘ソラトスの中心で、クラフトビールを通じて地域の魅力を発信する「サンデーブルーイング」。ゆめが丘に吹き込まれた新風が、これからどのように広がっていくのか、注目が集まっている。

カメラマンから起業家への転身

まずは見木氏のこれまでの経歴について伺った。

最初はフリーランスのカメラマンだったんです。主にファッション系の撮影をしていました。大手の出版社から仕事を頂いていたんですけど、ファッション写真って報酬が安くて、「これだけじゃ食べていけないな」と思ったんです。それで、他のジャンルに仕事の幅を拡げていったんです。夜のお仕事関連の写真も撮ってました(笑)。お給料は結構良かったんですが、やっぱり「このままじゃダメだな」と思うようになったんですよね。
そこで、ちゃんとネクタイを締める仕事をしようと思って大手出版社で働くようになりました。人材採用の仕事を2年間やったんですけど、これがまためちゃくちゃ大変で…。当時のITバブルの影響で業界全体がすごく忙しくて、同僚が急にいなくなったり、深夜まで仕事をする日々でした。
そんな環境にも疲れて、仕事しなくても怒られなさそうな昭和的な企業に行けば楽になるかもと思い転職しました(笑)。でも、年功序列のシステムがあまりにも退屈で、成果を出しても年齢でしか評価されない風潮が「超つまんないな」って思ったんです。結局「俺は成果主義の会社も年功序列の会社も、ブラック企業もホワイト企業もだめなんだ。そもそも会社員という職業が合っていないんだ」って感じたんです。
そんな感じで、個人事業主として各所から小さなお仕事を貰い食いつないでいたんですが、ある地域案件で知り合った大学生の男の子から「就活全部ダメだったんで、雇ってください!」って言われたんです。今考えたらめちゃくちゃ失礼な話ですよね(笑)。その時に「個人事業主って人雇えるのか?」と思って「じゃあ会社を立ち上げてみるか」という感じで、今のスイベルアンドノットを立ち上げたんです。彼がいなければ今はありませんでした。
今の起業家の皆さんみたいに「これを社会に伝えたい!」「未来を創りたい!」などのビジョンがあったわけじゃなくて、完全に流れに任せて始めたんです(笑)。

「会社員が合わない」という感覚を抱く人は少なくない。しかし、その思いから自ら事業を立ち上げるのは、決して簡単な決断ではないはずだ。それにもかかわらず、見木氏は自然の流れの中で会社を設立したという。そして、その会社を10年以上も経営し続けている実績は、見木氏の経営における卓越した手腕を示している。流れで起業したとはいえ、その後の持続的な成長と成功は、確かなビジネスセンスとリーダーシップがあってこそ実現できたものだろう。


「地元」を持たない男の地域貢献としてのクラフトビール

個人事業主になってから主に武蔵野市の地域や行政の仕事をしてきました。両親が転勤族だったため、自分には「地元」というものがなかったんです。なので地域の仕事で知己の様々な人とつながるのは地元感を感じることができ面白いなと思ったんです。職場が地域、みたいな。その延長で、地域の名産品を作ってみたいという気持ちが芽生えました。
その時、地域性を表現できるものは何だろうと考えた結果、思い浮かんだのがクラフトビールでした。クラフトビールなら、その地域の特色や魅力を反映させることができ、地域に根ざした商品として展開できると考えました。

転勤を繰り返してきた家庭で育った子供にとって、「地元」とは何だろうかという疑問を抱くのは、ごく自然な感覚である。地元と呼べる場所がないからこそ、成人してから自分にとっての地元を見つける喜びはひとしおだ。その場所に対して感じる愛着も、一層深いものになるのだろう。


クラフトビール事業への参入=地獄の始まり?

クラフトビールに興味を持ったのは、友人にブリューパブに連れていかれたことがきっかけでした。長期間ロンドンに出張している友人に「クラフトビールって知ってる?」と聞かれて一緒にブリューパブに行ったのですが、「ビールを厨房の奥で作っている」ということに驚かされました。それまで、缶ビールしか飲んだことがなく、「ビールって大きな工場でしか作れない」と思い込んでいたので、まさに目からウロコでした。
「これ、いけるかも」と思って、銀行に融資の相談をしたんです。前職時代には手当たり次第に企画書を作ってきた経験が活きて、銀行の融資相談の企画書がうまくかけたんでしょうね。意外にもスムーズに借り入れができました。そこで「これは本当にいける」と確信して、事業に踏み出しました。

しかし、そこからが地獄の始まり(笑)。調達した資金を元手に2018年に「26K Brewery」というブルワリーを立ち上げたのですが、当時は今のようなクラフトビールブームは来ておらず、多くの人から「1杯600円もするビールなんて、誰が買うの?」と言われ、反対されました。「そんな意識の高い人は武蔵野市にいないよ」という具合に。
さらに、担当してくれる醸造家も見つけるのに苦労して、仕入れ先や酒税のこともよくわからない。すべてが手探りの状態で始まったんです。当時、私は本業として広告業(イベント企画やWebサイト制作など)を行っていたため、自分で醸造に手を回すことができなかったので、支えてくれた皆さんには本当に本当に感謝しています。

クラフトビールの製造は、それまで自分が経験してきたサービス業とはまったく異なるものでした。今までの「コトづくり」から「モノづくり」へのシフトは決して簡単ではなく、全てが逆の感覚でした。サービス業ではお客様との接点や体験を作るのに対し、製造業では製品の細かい工程一つひとつに向き合わなければなりません。品質の安定化、製造過程でのボトルネックなどの問題が生じることが多々ありました。さらに、事業立ち上げの翌年からコロナ禍が始まって…もう、これどうなっちゃうの的な感じでしたね。

受注予測が立てられないと、製造計画の見通しが非常に不安定になる。その結果、必要な原材料の仕入れ量があいまいになり、過剰に在庫を抱えてしまうリスクが生まれる。過剰在庫は保管コストやキャッシュフローの悪化を招き、ビジネス全体に悪影響を及ぼす。逆に、在庫が不足した場合は、製造が追いつかなくなり、納品遅延や販売機会の喪失につながる。特にクラフトビールのような製造工程が複雑な製品では、こうしたリスクが重なり、業務全体に多大なストレスを与える要因となるのだろう。

一方で、コロナの影響は思った以上に良い結果を生んだ点もあります。仕込んでいたビールを出荷せずに全量、近隣の皆さんやお世話になっている人に無償で配布したところ、その行動が会社のブランドイメージを大きく向上させました。結果的に、苦境がチャンスに変わったと言えるのかもしれません。

「売れないなら配ってしまえ」という発想の転換こそ、10年以上にわたって企業を存続させる経営者の真骨頂である。「ピンチをチャンスに変える」という言葉はよく耳にするが、それを実際に具現化するための発想力と実行力は、特筆すべきものである。売れ残ったビールを無償で配るという決断は、一見リスクが高いように思えるが、この大胆な行動こそがブランド価値を高め、結果的に危機を乗り越える原動力となった。このような柔軟な思考と戦略的な判断が、経営者としての強さと卓越した手腕を際立たせている。


「横浜のチベット」での新たな挑戦

ずっと第二工場の場所を探していました。「26K Brewery」を立ち上げた時の5ヵ年計画でも、第二工場を建てるという目標を掲げていました。いろんな場所を見て回ったんですが、なかなかピンとくる場所がなかったんです。
そんな中、自社が企画するイベント運営の中で相鉄グループの方と知り合い、ゆめが丘のショッピングセンタープロジェクトの話を聞いたんです。最初は「ゆめが丘?どこそこ?」と思い、ネットで調べてみたら「ゆめが丘=横浜のチベット」なんていうパワーワードが出てきて(笑)。これは面白そうだなと思って、現地を見に行きました。駅に着いたら、文字通り何もなくてびっくりしました。当時は相鉄線の中でも最も乗降客が少なかったらしく、数人しか降りない(笑)。そして移動手段が車の地域なので、飲めない人が多いかもしれない。出店を躊躇するのに十分な要素が集まりすぎていました(笑)。

でも、その時に「26K Brewery」を立ち上げた時のことを思い出したんです。今では店舗の前は人通りが多いんですけど、立ち上げ当初は全く人通りがなくて、色んな人から「やめておけ」と言われました。でも、やってみたら新たな人通りができて、結果的に成功したんですよね。
そこで気づいたんです。何もない場所に新しい市場が生まれたら、今までいなかったターゲット層が生まれるんだって。「26K Brewery」の経験があったから、ゆめが丘でもチャレンジしてみようと思ったんです。
性懲りもなく、銀行からまた融資を受けられたので、「やるしかない!」と思い、進めることにしました。全部借金からのスタートですが、総額で1億円を超える規模のプロジェクトになりました。

新店舗出店において立地が重要というのは周知の事実だろう。しかし、一見条件が悪い立地において自社のブランディングによって、新たなマーケットを醸成できるならば、その立地がむしろ好立地となる可能性も秘めている。
その立地特性に沿った新たなターゲット層を獲得する。これこそがマーケットの拡大に寄与する行動だろう。


新たな巨大投資に向かう覚悟

新規事業への参入は、経営者にとって重大な意思決定の瞬間だ。特に設備投資が伴う産業への参入は、その初期投資の大きさゆえに、経営リスクが大きくなることが多い。このような状況下では、経営者に強い覚悟と慎重な判断が求められる。

設備産業における参入は、一度決断すれば大きなリターンが期待できる一方で、初期投資の負担が経営に大きなプレッシャーを与えることも事実だろう。どのタイミングで新規事業に挑むか、その際の資金調達やリスクマネジメントの戦略が、事業の成功を左右する重要な要素となる。

正直「何とかなる」という感覚を大事にしています。うちの強みは、ビール製造販売単体に依存せず、さまざまな事業との組み合わせにあります。例えば、イベントとビールを組み合わせたり、他の事業と連携させることで新しい価値を生み出すことができるんです。だから、ビール事業単体で利益が出なくても、他の手ごまを使えば何とかなるなと考えていました。
ビールだけで大きな利益を生み出すのは難しいのが現実です。でも、ビールは非常にキャッチーですし、他の事業と組み合わせれば大きな力を発揮します。だからこそ、ビール以外にも軸足を作ることが重要だと思っています。

クラフトビール一本で事業を成功させているクラフトビールの大手企業の方や老舗ブルワリーの方の話を聞くと、その歩んできた道のりは本当にすごいと圧倒されます。私たちはその道を追うのではなく、自分たちのやり方で、ビールを一つの強力なツールとして育て、他の事業と掛け合わせ、社会にインパクトを与えていきたいと思います。それが、うちの強みだと思っています。

他の事業とのシナジー効果を最大限に発揮するためのビール事業。このような位置づけは、企業経営を持続可能なものとするために極めて重要な発想である。1つの事業に集中するのではなく、リスク分散を図りながら複数の事業を同時並行的に展開することで、経営の安定性が高まる。

もちろん、複数事業を運営することは難易度の高い挑戦であるが、それによって得られる成果は非常に大きい。シナジー効果をうまく引き出すことで、個々の事業の価値が相乗的に高まり、企業全体の成長につながる。ビール事業をこうした役割に位置づけることは、長期的な企業経営において重要な戦略と言えるだろう。


今後の展望 ~ 水族館で新しい価値提供を

そんな見木氏は今後の挑戦として、2点挙げている。

1つは昔からの夢だった「水族館」を作りたいと思っているんです。水族館という市場にはまだまだ伸びしろがあると感じています。今は魚を見るだけの場所ですが、もっと違う使い方ができると思うんですよ。例えば、「水族館に飲みに行こう」とか「水族館に泊まりに行こう」って、あまりないじゃないですか。でも、水族館って365日、24時間快適な空間ですよね。その良質な環境なのに、1日せいぜい10時間くらいしか稼働できていない。この環境を十分に活かせていないと思うんです。もし、その空間で飲んだり食べたり、泊まれたりできたら最高だと思いませんか?これこそ大きな商機だと考えています。

もう1つは障がいのある人や不登校の子どもたちの活躍できる場所を作ることです。横浜には障がいのある人や不登校の人たちを支援する施設がたくさんありますが、そういった人たちにやりがいのある仕事に携わってもらいたいんです。例えば、自分が作ったビールを誰かが「美味しい」って飲んでくれたら、その喜びや達成感はすごいと思うんですよ。仕事には人を輝かせる力がある。「この美味しいビールを作ったのは実は俺たちなんです」と、関わってくれた人が胸を張って言える商品を作りたいんです。

いずれも社会的意義の大きいものだ。水族館という空間の有効活用に関しては、すでに多くのコストをかけて整備された環境を、従来の営業時間や目的に限らず、最大限に活用しようとする発想である。このような取り組みは、新たな収益源を生み出すだけでなく、利用者に新しい体験を提供することができるだろう。

また、障がい者や不登校の子どもたちに活躍の場を提供するという考え方は、単に社会貢献にとどまらず、人口減少=労働力不足という社会課題を補うための具体的な解決策にもなり得る。彼らがビール造りなどのやりがいのある仕事に携わることで、社会に対する貢献と自己肯定感を高めることができる。このようなビジョンは、企業が単なる利益追求ではなく、社会全体の持続可能性に貢献するための重要なステップだ。


クラフトビールの新たな魅力—幅広い世代に広がる楽しみ方

クラフトビールって、流行に敏感でオシャレな人が飲むイメージが強いと思っていたんですが、驚いたのはおじいちゃんおばあちゃんもクラフトビールをたくさん飲むことです。彼らは「クラフトビール」を求めて来ているわけじゃなくて、「量が少なくてちょっと美味しいビール」という感覚で楽しんでくれているんですよね。
なので、「サンデーブルーイング」は昼のお客様が多い(笑)。みんな楽しそうに飲んでいます。
ここでビールを飲んで、「いつもの缶ビールと違ってなんだか美味しいな」と思ってもらえる。これって、クラフトビールのマーケットを広げるうえで非常に大きな意味があると思っています。
なので、店の内装も特定の層に偏らないように、あえてブリューパブっぽくしていないんです。昼間にオシャレなカフェに来てビールを楽しんでもらう感覚で来てほしいと思っていて、その雰囲気を大事にしています。幅広い世代の人たちにクラフトビールを楽しんでもらえる場を作りたいんです。

取材を行ったのは平日の昼間だったが、店内には近隣から訪れたと思われる多くの高齢者の姿が見られた。特に印象的だったのは、まるで喫茶店でコーヒーを飲むようにクラフトビールを片手に世間話に花を咲かせているおばあちゃんたちの光景である。クラフトビールが、「オシャレな飲み物」にとどまらず、地域の人々が気軽に集うきっかけとなっている様子がうかがえた。


世の中に不味いビールはない

地元の産品を積極的に使うことを意識しています。例えば、地元の障がいがある方が生産した小麦を使ったウィートエールは、うちの定番商品です。また、地元産ハーブを使ったビールもシリーズ化し、収穫のタイミングに合わせて定期的に提供する予定です。さらに、その畑でホップも栽培を始めており、来年からはそのホップを使ったビールを出す予定です。
もう一つ大切にしているのは、「2杯目が飲めるビール」「飲み疲れないビール」というコンセプト。クラフトビールを飲み慣れていない人も多いので、あまりとがりすぎない親しみやすいビールを提供するよう心掛けています。

ビールのレシピに関しては、ブルワーに一任しています。「わくわくする明日をつくろう」という当社の理念に沿っていれば、自由にクリエイティブな発想を取り入れて自由に仕事をしてもらっています。彼らが自信を持って「こういう設計で、こういう人に向けたビールです」と言えるなら、それでOK。たとえ自分の好みと異なっていても、それもまた良しとしています。

不味いビールは世の中にはないと思っています。自分に合わないビールはあっても、不味いビールは存在しないんです。例えば、「生ホップを使ったビールです」と言えば、それは美味いとか不味いという次元を超えた、新鮮なホップを使ったビールそのものです。もちろん、その風味が好きな人もいれば、そうでない人もいるかもしれませんが、どんなビールにもそれぞれの個性や良さがあるんですよね。人と一緒で、その人の「良さ」を見つけるのが楽しいですね。

「美味しいか美味しくないか」という評価は、極めて主観的な感情に過ぎず、結局は「個人の感想」であるにすぎない。特にクラフトビールのように、多様な組み合わせからほぼ無限のバリエーションが可能な飲み物においては、その味が「美味しいか否か」といった評価自体が、無意味なものになると言えるだろう。

クラフトビールの本質的な価値は、主観的な味の評価よりも、むしろ「どんな原材料を使っているのか」「どんなストーリーや背景を持つビールであるのか」といった点にあるのかもしれない。それこそが、クラフトビールが単なる飲み物を超えた魅力を持つ理由であり、消費者にとっての重要なファクターとなるのだろう。

匠の技と事業拡大の狭間で ~ 進化とスケールのジレンマ

はっきりいって、ブルワリーって構造的に儲からない部分がありますよね。だから、人を雇うのが難しくてスケールしづらいんです。最終的には、自分の時間を削って作り続けることになってしまうことも少なくないと思います。
人の育成も非常に大事だと感じています。みんながみんな、内を向いて仕事をしてしまうと業界全体の実力が上がっていかないと思うんです。例えば、どこかで発酵不良のビールが出てしまったとして、それ自体は大きな問題ではないかも知れませんが、その次に違う店舗でまた発酵不良のビールを飲んで「クラフトビールってこういうものなんだ」と思ってしまったら、クラフトビールの一番の魅力である個性が失われてしまって、面白くなくなってしまうと思うのです。
また、醸造家になりたいという人は多いですが、育成する/される場が少ないですよね。これは、構造的にブルワリーが儲からないからこそ、育成の機会が少なくなっているという問題があります。


クラフトビール業界では、職人1人に醸造工程の一から十までを任せる風潮が強い。この職人中心の体制では、技術やノウハウが一人の職人に帰属してしまい、結果としてその工程の標準化や効率改善に結びつきにくいという課題がある。特に、ボトルネックの改善が遅れることが業界全体の発展を阻害する要因となり得る。

工程を分業化し標準化することで効率の向上や品質の安定化が期待できる。しかし、それは同時にクラフトビールの魅力である「自由な発想」や「個性」を失う可能性も否定できない。クラフトビール業界は、職人技と効率化の間にあるこの大きなジレンマに直面しているといえるだろう。

弊社レベルの製造業において大事なことは、「今日作ったものより、明日作ったものの方が良くなっている」という改善の積み重ねだと思っています。だからこそ、そういった改善への挑戦はとても大事にしています。飲んでブルワリーの哲学やブルワーの想いが伝わるビールづくりを目指して、これからもかんばります!

毎日改善を図ることは現実的には非常に難しい。しかし、そうした改善へのマインドセットを持ち、毎回の仕込みや店舗運営に取り組む姿勢こそが、スイベル&ノットの持続可能な経営を支えていると言えるだろう。クラフトビールを軸に市場のイノベーションを目指す同社の挑戦に今後も注目したい(Beerboy 編集部)

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