#4 GRANDLINE BREWING

神奈川県横須賀市。米軍ベースからほど近く、三笠公園から徒歩2分の場所にそのブルワリーはある。GRANDLINE BREWING(以下、GLB)だ。アナログの世界が広がるブリューイング業界において、デジタル通貨を取り入れた先進的な取り組みを行っているGLBを運営する株式会社ステイハングリー。エンタメ業界のプロモーションやマーケティングに携わってきた経験に裏付けされる豊富な知見を活かしたブリューイングへの向き合い方について、代表取締役の大西氏に伺った。

クラフトビール参入の経緯等の詳細は別途以下の記事も参照されたい。

クラフトビール事業をやる理由|Stay Hungry Official Web

 

「先進的な取り組みでビール業界に新たな風を」

GLBといえば、そのシンボリックなデジタルコンテンツやこだわり抜いたクリエイティブであろう。クラフトビールイベントでもそのオリジナルキャラクターを描いた看板が大きな存在感を発揮する。また注目すべきはそのオリジナルキャラクターをNFT(Non-Fungible Token 非代替性トークン)※1として一般ユーザーへ販売、そのNFTホルダーで独自のコミュニティを構築している点である。

「めめんちさんという著名なクリエイターに、キーとなるキャラクターデザインをお願いしました。2人のキーキャラクターがいて、女の子は ”エル” と 男の子は”ラガーロ” と呼ばれています。シンプルにビールの種類である ”エール” と ”ラガー” から命名したんですが(笑)。この2人のキーキャラクターを中心に、男女・顔・髪型・服装・パーツ・背景のバリエーションを用意して組み合わせを変えることで1,500点以上のアートを作って、NFTとして販売しました。初回販売分の1,500点は全て完売していて、NFTホルダーをはじめ4,000名弱の参加者が集まったDiscordのビールコミュニティ内で、日々活発な交流があり、イベントやキャンペーン情報も発信しているんです。 元々はコンセプトやキャラクターが好きで購入していただいたNFTホルダーも、こういった取り組みを経てGLBのビールのファンにもなってもらえると思っています。 クラフトビール業界ってなかなか他のブルワリーさんとの差別化が難しいと思っていて、そういった観点でもこのNFTの取り組みに対して反響があり、手ごたえを感じています。多くのユーザーさんからは ”あぁ、あのキャラクターのブルワリーね” と認知してもらえていますね。」 

 本業で追求しているエンタメ発想ならではだ。ユーザーの認知獲得や競合差別化、ブランディングを15年以上生業としてきた大西氏の最先端のデジタル技術を活用した取り組みが光る。

GLBが手がける”NFTプロジェクト Crypto Beer Punks”の取り組みについては公式サイト(NFTプロジェクト「Crypto Beer Punks」)も参照されたい。

※1:NFTは仮想通貨に使われているブロックチェーンの技術を利用してデジタルコンテンツやデジタル資産の所有権を証明するために使用される。デジタルアート、音楽、ビデオクリップ、仮想世界内のアイテムなど、様々なデジタルコンテンツに関連付けることが可能。

 

「Enjoy KANPAIを体現するコミュニティ」

いずれはメタバースの世界でアバターが飲める”メタビール” を開発したいと語る大西氏。アバターの手に持たせてかっこいいと思われるビールデザインとすれば、アバター同士で乾杯して新たなコミュニケーションが生まれる。それこそがEnjoy KANPAIの思想とのこと。

「お酒は好きではないけれども、飲み会の場は好きみたいな人がその場で盛り上がっている臨場感とかを楽しみたい時に ”メタビール” を仮想空間で飲む(実際は飲んでいない)といった世界観です。 あるいは10代の子たちが”メタビール” を仮想空間で飲んで盛り上がる経験をし、それがきっかけで友達ができて、20歳になったらリアルの場でクラフトビールを飲むために集まるといった世界も想像するとワクワクしますね。 このようなデジタル空間をビール体験の入口として、リアルでビールを飲む人を増やす形でビール人口を底上げしていく目的もありますが、私たちとしては ”乾杯(KANPAI)” を増やすコミュニティのための取り組みとも位置付けています。結局 ”乾杯(KANPAI)” という瞬間が最高、がベースにあります。極端な話、必ずしもそれがビールではなくてもいいんです。乾杯するその瞬間を楽しんでもらえたら良いというコンセプトですからね。
じゃあなぜビールか、という話ですが、乾杯=ビールという分かりやすさがあるためです。日本における”とりあえず生” の感覚でカジュアルに “KANPAI” するにはビールって最適かなと思っています。」

クラフトビールファンの潜在層を取り込んでクラフトビール人口を増やすという取り組みは、クラフトビール市場の広がりに向けた中長期的な取り組みとなるが、ビール市場の1.5%と言われるクラフトビールマーケットを押し上げるポテンシャルは計り知れない。

instagram(grandline_brewing )より

「ビールの楽しみ方は自由」

クラフトビール好きが高じて自身でジャパンビアソムリエ、ビアジャーナリスト、ビアコーディネイターなど様々な資格を取得した大西氏。さらには、都内でクラフトビールが飲めるお店を厳選紹介する ”ビアマップス” というWebアプリ/メディアまで作るほどの熱狂ぶり。ビールの官能表現など深い知識まで精通している大西氏だが、自身は ”クラフトビールはシンプルに楽しく飲みたい派” と言う。

「クラフトビールの官能表現って難しいですよね。色んなフルーツのフレーバーとか、松の香りとか草っぽいとか… それを覚えるのは資格取得が向いてますよ。ジャパンビアソムリエなどはまさにそういう香りや味、感慨深いとか様々な味、フレーバーの表現を学ぶことができます。 でも私はビールの多様性を感じながら、シンプルに楽しくおいしく飲めればそれで良いと思っています。どちらかというとお客さんから ”このビールはどんなホップを使ってるの?” とか “モルトの組み合わせを教えて” とか質問されることが多いですね。本当にクラフトビールが好きでいてくれて嬉しいし、隠すことでもないのでもちろんお答えするんですが、私自身が飲むときはあまり深いことを考えたり考察することはあまりしないですね。一応ビアソムリエではありますが(笑)
クラフトビールの楽しみ方って自由ですよね。だから、1つ1つのビールに対して製法や原料を紐解いて深く考察しながら楽しむもよし、何も考えずに自分の感性に従って楽しむもよし、その自由な飲み方がクラフトビールだと思っています。」

大西氏自身は都内で本業も運営しながら、月に2,3日ほどタップルームにも立っている。そんな中でも来店するファンとのコミュニケーションは非常に大切にしている。本当に深い知識を持っている方も多いとのことで、つい本業の癖で、”リアルマーケティングの場” のようになることもしばしば。

 

「若い力や感性を結集したい」

このクラフトビールブームを受けて、世間ではブルワー(醸造家)への転身を志望する人が非常に多い。GLBも、今後の事業拡大に向けてブルワーの採用を考えているが、そこには大西氏の明確な意図があった。

「うちのヘッドブルワーは28歳です。まさに今GLBも規模拡大を検討しているので、ブルワーの採用はしていきたいですね。当社の考え方でもありますが、できれば20代を中心にメンバーを構成していきたいと考えています。本業もGLBも、若い力でやっていきたいですね。現状の社会の仕組みを変革するには若い力じゃないと不可能だと思っているからです。それは体力だったり、既成概念にとらわれない柔軟な発想だったり、様々な角度から考えています。 今は私自身かなり精力的に動いていて、他の若いメンバーに負けないつもりですが、それっていつまで続くか分からないですしね。なので、今からノウハウを継承していかないと間に合わない気がしてます。」

“自分は好きなことをやっていて、楽しいので、正直疲れとかあまり感じない”と語る大西氏も現在は40歳。本業の広告・PR事業はある程度メンバーに任せて、今はGLBに関する事業に注力している状態だが、必要に応じて発想の柔軟性や新たなトレンドへの対応力を持つ若手メンバーへの移譲も考えているとのこと。

Instagram(grandline_brewing )より

「”Think big” で業界のゲームチェンジャーに」

現在、新たな取り組みとして、ブリュードッグ・カンパニー・ジャパン(以下、ブリュードッグ)との協業で、”KANPAI PASS”というLINEを活用したサービスを構築している。ビールを飲んでデジタル会員証にカンパイコイン(KPC)を貯め、そのコインでグッズやビールに交換できる仕組み。特に注目すべきはそのデジタル会員証(カンパイコイン)が複数のブルワリーやビアバーに共通化されるという点だ。まずはBREWDOG Roppongiを旗艦店としてPoC(Proof of Concept 概念実証)を実施、今後は横須賀から三浦半島エリアをはじめ、より広いエリアのブルワリーやビアバーを巻き込んでいく計画だ。

「今流行っているブルワリーやブリューイング関連システムって海外発のものが多いのですよね。クラフトビールに限らず、どのビジネスをとっても、海外のモデルが主流になっているとさえ感じてしまいます。海外に展開している日本人発のブルワリーさんってほんの一握りですよね。だから私は日本人として世界で戦えるものを創ろうと考えています。 その突破口を開けるのがこの”KANPAI PASS”や”Crypto Beer”のような新たな領域だと考えています。これを世界まで広げていくことにこだわりたい。それは決して夢物語ではなく、NFTの技術を使って海外に打って出られるポテンシャルを秘めているはずなんです。
私が思う海外のプレイヤーの強みって ”Think big” つまり ”大胆な構想を描くこと” なんだと思っています。よく外国人のブルワーさんが日本で醸造を始めるという話を耳にしますが、その規模の大きさにまず驚きます。初めから数億円規模の設備を導入して、大規模に始められる。それだけでまず話題になるし、その時点でスモールスタートするケースより一歩リードしてますね。でもそれって、クラフトビール醸造という投資ビジネスにおいては大きなリスクを取っているはずなんです。この根本って、やはり ”Think big” なんだろうなと。その大胆な始め方って日本人ではなかなか見ない気がします。
日本のビジネスシーンでは、徹底した計画とスモールスタートからの段階的アプローチが重視され、リスクを最小限に抑えることに重きを置いている感覚があります。安定性や信頼性を確保し、事業の持続可能性を高めることに繋がるためですね。その一方で、大胆なアイデアや革新的な構想に対する価値が時に軽視されがちです。私自身もまだまだ学ぶことが多いです。 近い将来何かの形でクラフトビール業界のゲームチェンジャー” になりたいと思います。」

クラフトビールならではの ”地域に根差すブルワリー” という考え方は常に意識し、そのような地域のブルワリーと共に地域の活性化のために協業することは前提になるが、その先にある大きな野望を忘れない、という矜持を感じる一幕だ

「クラフトビール業界全体の底上げを」

「“KANPAI PASS” には少なくない投資をかけています。この取り組みって、うちだけが儲かるためにやっているものではなくて、参画してくれたブルワリーさんと一緒に市場の裾野を広げて、それで全員で世の中に打って出たいという想いがあるんです。」

▲たくさんのお話を聞かせていただいた大西氏

多くのマイクロブルワリーにとっては、このような “市場ルールを変えていく取り組み” を実践することは、資金的にも工数的にも難しいだろう。株式会社ステイハングリーが独自の知見やノウハウ、積み上げてきた資本を活かしてクラフトビール業界をアップデートしようとするアクションに対する注目度は非常に高い。 GLBがクラフトビール業界のゲームチェンジャーになる将来に期待したい。(BEERBOY 編集部)


GRANDLINE BREWING
神奈川県横須賀市小川町23−1 フドウ横須賀三笠ハイツ 102
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