神奈川県の湘南エリアに位置する辻堂駅。サーフィンのメッカとして知られる辻堂海岸と、隣接する広大な辻堂海浜公園が有名だ。この公園は、広大な敷地に多くの遊具やジャンボプールがあり、週末には様々なイベントが開催され、子供から大人まで楽しめる場所だ。また、辻堂駅直結の大型ショッピングモール “テラスモール湘南” には、多くのブランドショップや飲食店、映画館、スーパーが揃っており、週末には家族連れやカップルで賑わう人気スポットとなっている。その反対側には昔ながらの商店街も立ち並び、夜になると地元の陽気なサーファーが集い楽しくお酒を酌み交わす風景も見られる。 ”本当に住みたい街ランキング2022”(*1) では第1位を獲得するほど注目されているエリアだ。 この自然とショッピング、食が三位一体で楽しめる魅力あふれるエリアに、地元の人々に愛されているブルワリーがある。”Beer & Pizza Mackendy” (以下、Mackendy)だ。醸造所兼レストランとしての立ち上げ時から一貫して醸造に取り組んでいる、代表取締役の野原氏に話を伺った。
*1:住宅ローン専門金融機関のアルヒのデータを基に住宅専門家が1都3県の中で選定したランキング
ブルワリーの ”産みの苦しみ” を経て…
「店舗オープンは2018年8月ですが、自分にとっての真のスタートラインは2018年6月1日です。その日、銀行から融資が振り込まれたので、自分の中では事業のスタートを切ったと感じる瞬間でした。その観点では今ちょうど丸6年が経ったことになりますね。 融資金額はレストランの開業と醸造所の設立で全て使い切ったので、最初の頃は経済的にも精神的にも非常に追い込まれていました(笑)。日々の返済に追われながら、何とか事業を軌道に乗せようと必死でしたよ。 現在では借入もだいぶ減り、以前よりは肩の荷が下りた気持ちです。まるで荷台に荷物を載せずに自転車を漕いでいるような軽快さがあります。この感覚は、初期の追い込まれた経験がないと得られないものでしょうね。この6年間の道のりは決して平坦ではありませんでしたが、それらの経験が現在のMackendyの基礎を築いていると感じています。」
設備産業と言われるブルワリーの ”産みの苦しみ” を笑顔で語る野原氏。ブルワーになるにあたって、相当な覚悟が求められることが良く分かるストーリーだ。そんな野原氏が化粧品会社のセールス経験、スノーボードショップ店員の経験を経て、ブルワーになるまでの経緯も興味深いものだった。
「Mackendyを立ち上げる前は大手のブルワリーで3年ほど修行していました。そもそも、クラフトビール業界に飛び込んだきっかけですが、もともとビールは好きでしたが特別クラフトビールが好きというわけではなく、なんとなく飲んでいただけだったんですね。ある日、とあるビール屋で読んだフリーペーパーのブルワー特集で、醸造風景がカッコ良く紹介されていました。それを見て ”この仕事、かっこいいな” と。 もちろんビールは好きですけど、”一番好きなビールはクラフトビールか?” と言われると、実は黒ラベルが好きだったりします(笑)。ビールからすぐ焼酎に移る時もありますし、クラフトビールだけをずっと飲んでいるということはないですね。でも、ビールを作る姿には魅了されて、この仕事を始めたいと思ったんです。 修行先では、とにかく醸造の基本を徹底的に覚えました。修行の身だったので ”休みなんていらない、とにかくビールを作りたい!” という気持ちで3年間ハードに修行しましたね。会社に泊まることもしょっちゅうで、ロッカーには常に1週間分の着替えがありました。記憶に残っているのは、月曜日に出勤して次週の火曜日に帰った7泊8日勤務です(笑)。週に2、3回の仕込みがあり、タンクにあるビールを樽に移して、樽を洗って、タンクを洗って…といった具合でとにかく休めるタイミングがほぼなかったですね。それでも修行中の3年間はとにかく醸造スキルを磨きたかったので、醸造はできる限り人に譲らずに自分がやりたいと思っていました。3年間という期間以上の経験を積ませてもらえました。」
醸造家としてのスキルを身に着けるために、野原氏は文字通り “寝る間も惜しんで” 努力を続けてきた。ラグビー経験に裏付けされる屈強な身体つきは、ビール醸造のハードワークにぴったりだ。修行の日々は、長時間かつ重労働の連続だが、その厳しい環境をも楽しみながら過ごしていた様子が伺える。 野原氏の醸造に対する熱量は、”手伝ってもらう” のではなく “譲る” というスタンスに表れている。極力多くのスキル・知識を自身の血肉とし、経験資産を積み上げることにこだわる貪欲な姿勢は醸造家としての情熱を象徴しているように感じた。
醸造哲学:進化と変わらない根本
「基本的なスタンスは ”その時いいなと思ったビールを作ること” ですね。その時々のマイブームでレシピが変わることはしょっちゅうあります。元々は、クリーンでクリアなビールが好きで、濁ったビールは作りたくなかったんです。お客さんからも ”ヘイジー(Hazy IPA)は作らないの?” とよく聞かれますが、個人的にそこまで好みではないということもあって、あまり作ってきませんでした。しかし最近はマイブームが変わって、ヘイジーも作ります(笑)。いざ一度作ってみたら、思った仕上がりにならなかったので、次にイーストを変えたり試行錯誤の連続です。まあ、それが楽しいんですよね。」
過去の自分の考え方に固執せず、その時の自分のインスピレーションに忠実であるということだろう。その柔軟なマインドが10年間もの長い間醸造を楽しみ続けられる要因にもなっているようだ。
ただ、その柔軟性の中にも変わらない信念もある。
「自分の中で変わらない部分もあります。”麦芽由来の甘み” が少ないスッキリしたビールを作りたいという点ですね。ヘイジーを作っても、麦芽の甘みが残った甘いヘイジーではない、スッキリしたヘイジーに仕上がりました。本来の “ヘイジーっぽさ” はないかもしれませんが、それが失敗とは思ってはいないです。やっぱり自分のビールにはその特徴が残ってしまうんですね。 スッキリしたビールといっても、フルーツの甘みのあるビールは大好きですね。フルーツ系を作るときは、そのフルーツの香りがガツンとくるビールにしたいです。甘さを抑制することなく、フルーツそのままの味をできるだけ引き立てたいんです。」
クラフトビール作りにおいて、根本となる思想は一貫しつつも、その時々の直感やマイブームも非常に大切にする。このアプローチは、"変わらない根本" と "変わる進化" の両軸を持ち合わせていると言えるだろう。
ピザとピルスナーの絶妙な組み合わせ
「うちのビールラインナップの中で、一番の定番にしたいと思っているのが ”ゴリラガー” と “ツジドウルケル” です。どちらもピルスナーですが、それぞれに独自の特徴があります。 “ゴリラガー” は、ひたすらクリアなピルスナーで、その透明感と爽快さが特徴です。一方、”ツジドウルケル”は、クリアなピルスナーに少しクリスピーな香りを加えたものです。この香りが独特の風味を生み出し、”ゴリラガー” との違いを楽しむことができます。 “ツジドウルケル” はその名の通り、”ピルスナーウルケル(*1)” から名前を付けました。個人的にピルスナーウルケルが好きで、その味を再現したいと思ったんですね。1回目に作った時には満足できる部分もありましたが、“もっといけるな” と感じる部分も多かったです。ビスケット感やクリスピーな風味をもっとだせるな、と。初回ということでちょっとビビったのかもしれません(笑)。2回目以降はもっと極端な方向に振ってみて、そこから調整していく作戦に切り替えています。 ビスケット感を出しつつクリアな色を維持したいのですが、それがかなり難しいですね。ビスケットモルトを使うとどうしても色が付いてしまうんですよね。本家の ”ピルスナーウルケル” があのクリアで薄い色を保ちながら、どうやってあんなに豊かなフレーバーを出しているのか、とても興味深いです。」
エール系ビールに比べて、醸造期間の長いラガー系のピルスナー2種を定番とすることで、年間で醸造できる量は減ってしまう。それは利益を圧迫する要因にもなりかねないが、それでもピルスナーを定番としているのはMackendy特有の理由があった。
「ピルスナーを作れば作るほど、儲けが少なくなるのは分かってるんですが、やっぱりピルスナーを作りますね。うちのお客さんはピルスナーを飲む人が多いんですよ。うちはビアバーであると同時に、ピザ屋でもあるんですよね。”Beer & Pizza Mackendy” なんです。 クラフトビールだけを目当てに来ているお客さんばかりじゃなくて、ピザを食べに来てくれてそれに合わせて、 “普通のビール、飲みなれたビール” を飲みたいお客さんも多いんだと思います。日本においてこれまで飲まれてきた大手メーカーのビールがラガータイプだった状況から想像すると、”普通のビール=ラガータイプ” ということになりますね。だからこそ、ピルスナーは欠かせないんです。たとえ儲けが少なくなっても、うちに来てくれるお客さんが喜んでもらえるビールを提供するのが大事だと思っています。ピザとピルスナーの組み合わせは最高ですからね。」
店内に入ると、ガラス越しに見える6本の300㍑醸造タンクがまず目に飛び込んでくる。これらは圧倒的な存在感を放つが、それに負けないくらいの存在感を持つのが “ピザ専用の特大窯” だ。この窯で丁寧に焼き上げる本格ピザは、Mackendyの魅力の1つとなっている。ピザを食べに来たお客様にとっては、ピルスナーがペアリングとして最適だというのも納得できる。 ピルスナー2種を定番としつつもIPA、フルーツビールもレシピを変えつつ常に2種程度は提供しつづけたいと語る野原氏。クラフトビールをメインで楽しみに来るお客様も満足できる、多様なラインナップを維持することも重要ということだろう。
*1:ピルスナーウルケル(Pilsner Urquell)は、世界初のピルスナービールとして広く知られているチェコのビールブランド。その起源は1842年に遡り、当時チェコのプルゼニ(Pilsen)でビール職人のヨセフ・グロルがこのビールを初めて醸造し、ラガービールの一種であるピルスナースタイルの元祖としての地位を確立している。明るい金色の外観とすっきりとした苦味、そして麦芽の甘みが絶妙に調和した味わいが特徴で、ノーブルホップであるザーツホップを使用しており、フローラルでスパイシーな香りが漂うのもこのビールの魅力の一つ。口当たりは軽やかでありながら、しっかりとしたコクがあり、爽快な飲み心地がある。
”Beer & Pizza Mackendy” の目指す形
醸造タンクと特大窯に象徴される”Beer & Pizza Mackendy” の形態にもアップデートの余地はあるようだ。それは野原氏が思い描く “日常におけるビールの楽しみ方” とも紐づけられそうだ。
ピザをメインに選んだことには全く後悔はありませんが、時々その弱点は感じます。一言でいうと、”ピザって週に2回も食べない”、せいぜい月に1回食べるかどうかといったところかなと。 つまり、軽くつまめるメニューで構成されている立ち飲み屋のような店にはお客さんの日常使いの観点で分が悪いなと思っています。毎日通えて飽きないような、つまみになる料理を提供できたら、もっと良くなりそうだと思いますね。 この界隈ってそんな気の利いた居酒屋がたくさんあるんですよね。例えば刺身とか簡単な火の通った魚料理などが500~600円で並んでいてそこにクラフトビールがあったら、もっとお客さんが通ってくれるんじゃないかなと思うんです。それには腕の立つ料理人が必要で、真剣に料理を作る人が手がける気の利いたつまみとクラフトビールがあったら、もっとお客さんが楽しめるシーンが増えますよね。 小規模のブルワリーさんの中にはフードにはあまり力を入れず、クラフトビールだけを提供する形態もありますが、個人的には料理にもこだわってつまみとセットでビールを飲んでもらう体験をより多くのお客さんに提供したいと考えています。」
野原氏は、醸造家でありながら顧客への体験価値を高めるために、クラフトビールだけでなく料理も含めた提供メニュー全体のバランスも重視している。目指すところは、”クラフトビールが日常の一部として自然に存在すること” であり、そのために食事シーンでのクラフトビールの活かし方と向き合っているように感じた。
週に2日限定の”Bar野原”
提供メニュー全体のバランスのアップデートに向けた取り組みとして、週に2日間限定の ”Bar野原” の存在がある。さらに、この取り組みにはチームメンバーのワークライフバランスを向上させる重要な意味合いも含まれているようだ。
「“Bar野原” は毎週月曜と火曜だけ開くイベントです。基本僕以外は店にはいないので、事情があって自分が対応できない日はお店も休みとさせていただいています。この取り組みには2つの狙いがあります。1つは従業員の休みを確保するため、もう1つはMackendyのビールと新たなペアリングの発見を提供するためです。 1つ目は、やはりメンバーに楽しく働いてもらうために、スタッフのワークライフバランスは大切にしたいです。ただでさえイベントや店舗の運営で忙しい毎日を送っているメンバーたちですから、月曜と火曜だけは絶対に休ませられるようにしています。この仕組みを作っておけば、今後イベントが増えたり、キッチンカー導入などの新しい事業や業務が増えたとしても、過度な業務負担を強いることはなくなると思っています。 もう1つの狙いである、新たなペアリングの発見は、前述の目指したい”Beer & Pizza Mackendy”の姿とも重なります。お客さんには自由な食べ物を楽しむことができる日となっていて、好きなものを持ち込んで食べていただけるようにしています。ファーストフードでテイクアウトしたり、コンビニのスナックなど、何でも持ち込みOKです。何ならテーブルにホットプレートを置いているので、そこで焼き肉を楽しんでもらってもOK(笑)。 うちは卸売りにそこまで力を入れていないので、世の中の食材でうちのビールと合わせられない料理がたくさんあります。例えば、 ”寿司とMackedyのビールを一緒に楽しみたい” という希望があっても、寿司屋さんにビールを出荷していないため実現が難しいですよね。でも、Bar野原では、寿司を持ち込んでくれたらそのペアリングが実現します。こうして、これまで想像がつかなかったような新しいペアリングを体験してもらえたらと思っています。お客さんに楽しい経験をしてもらうと同時に、うちのビールがこんな料理と合うんだという僕の発見にもつながります。それが楽しいですね。」
この顧客を巻き込んだ双方向の商品開発スタイルは、単に消費者の意見を聞くだけでなく、実際にユーザーが開発プロセスに参加しフィードバックをリアルタイムで反映させることで、より顧客ニーズに合った商品を生み出せる上に、ユーザー側も自分が関わった商品に対する愛着が増す。このような取り組みは、顧客満足度の向上だけでなく、マーケティング効果の向上にも寄与するはずだ。顧客が自らの体験をSNSや口コミでシェアすることで、自然とプロモーションが行われ、新規顧客の獲得にも繋がる。結果として、商品開発と顧客エンゲージメントの両方で大きな成果を上げることが期待できる。
作り手としての “鮮度” を保つ
Mackendyを立ち上げてからの6年間、研修期間も含めると10年間、野原氏は絶え間なく醸造を続けてきた。長い年月の中で、どうしてもプロセスが一巡し、マンネリ化や飽きといった感情が生じはしないのだろうか。一人で醸造を続けてきた野原氏にとって、その景色はどのようなものだったのか。
「正直なところ(修行期間も含めて)10年近く醸造し続けて、飽きはとっくに来ています(笑)。朝起きて ”だるいな、行きたくないな” と思うことはしょっちゅうです。テンションが上がらない日も多いですが、それでも、新しいレシピを作る時は今でもワクワクします。例えば、ツジドウルケルに関しても初回の反省を活かして色を抑えつつビスケットのような風味を出したいと思って作ったレシピで、ウォートを取り出すときにその色を確認するときはドキドキしますね。マンネリ化しないよう、常に工夫しています。」
10年間近く1つのことに没頭し続けて ”一瞬たりともマンネリ化するな” と言われる方が難しいだろう。それでも恒常的にマンネリ化しないのは、野原氏の ”No Brew , No Life” の根源があった。
「レシピはほぼ全て自分で決めています。レシピのアイデアは日常生活の色んなシーンで生まれますね。無意識なんだろうけど、気が付くとレシピのことを考えていますね。例えば、旅行は新しいアイデアを見つける良い機会で、一昨年のゴールデンウィークに道の駅で見つけたジンジャーレモンジュースがヒントになり、新ショウガとレモンのビールを作ることに決めました。 他には “ネーミングの響き” からレシピを決めることもありますね。例えば今うちで提供している ”カリフォルニアコモン” というビールはその名前に惹かれて作りました。 これはラガー酵母を使った高温発酵のビールですが、入り口は”カリフォルニアコモンっていう名前ってシンプルにかっこいい!” だったんですよね(笑)。それからレシピの中身を調べて実際に醸造してみたら、美味しかった。そんな経緯を経て今でも定期的に作っています。」
“アメリカンって響きがかっこいい” と冗談交じりに話す野原氏。クラフトビールはある種アート的な要素も兼ねていて、ネーミングもクラフトビールを楽しむ大きなポイントだ。クラフトビールの醸造が生活の一部として溶け込み息を吸うようにレシピアイデアを考えていることにプロフェッショナリズムを感じる。
副産物を活用したサステナブルなホットドッグ:Mackendyの麦汁パン
今まで醸造過程で生じるモルト粕のトピックは扱ってきたが、今回はモルト粕から抽出される麦汁に焦点を当てたい。この麦汁はビールの原料として使われる麦汁と同性質のものだが、スパージング後の少量の麦汁はビールにはなりづらい代物だ。
「イベントの時によくホットドッグを出しているんですが、ホットドッグに使っているコッペパンは実は僕の手作りなんですよ。 お客さんも巻き込んで開発したんですが、麦汁を使ったパンです。 このパンは “麦汁パン” と呼んでいて、スパージングしてビールになる麦汁をケトルに移した後に、モルト粕から抽出しています。 初めのうちは試行錯誤の連続でしたが、 ”Bar野原” で試作品を提供しながらお客さんの声も聴きながら改良を重ね、1年ほどかけて商品として形にすることができました。うちはピザ屋でもあるので強力粉を大量に持っているし、パン用のイーストも常備しています。ビール醸造の過程で発生する麦汁を使うことで、追加の材料仕入れも必要ありません。さらに、ピザ窯は営業終了した後に鎮火すると、翌日の午前中には230度から250度の温度になっていて、この温度がパンを焼くのに最適なんです。余熱を利用することで、新たに窯に薪をくべることなくパンを焼くことができます。既存のリソースで全てが賄えてしまう理想的なアップサイクルなんじゃないですかね。」
ブルワリーでしか作れない特別なパンと自家製ソーセージの組み合わせは、Mackendyならではの一品だ。このユニークな取り組みは、顧客に新しい楽しみ方を提供している。また大量に排出されるモルト粕に関しても近隣の農家に提供し、肥料として再利用している。ビールの副産物を余すことなく活用することで、サステナビリティを実現している。この循環型のアプローチは、環境への配慮と地域社会との共生を目指したものだ。このように、Mackendyはサステナブルな取り組みを通じて、ビール醸造と食の融合を図り、顧客に新しい体験を提供し続けている。
クラフトビールの価格と “とりあえずビール” の文化
今のクラフトビール業界が抱える課題について伺った。 ”なんとなくビールって雑に扱われているような感じがする。”と語る野原氏。印象的な表現だが、その背景にはビールと共に生きてきた野原氏ならではのビール愛が隠されていた。
「クラフトビール業界に関して客観的に見て思うところは、やっぱ価格が高すぎだなと思っちゃいます。1パイント1,600円とか、”いくら何でも高くないか?普通に考えて、僕らそんな高級なもん売ってないっすよ”って(笑)。でもそのくらいの値段つけたくなる気持ちもよく分かります。原価も高いし、酒税も高いので、仕方ない部分もあります。 それでも、飲食店でそのくらいの値段で提供されているのを見ると、クラフトビールファンが離れちゃうんじゃないかと思うんです。今はクラフトビールブームに乗じて、飲んでる体験自体がオシャレでかっこいいって思ってくれてるお客さんも2,3杯飲んで ”3000円です” ってなる中で、普通のビールを同じだけ飲んで “1,500円です” ってなったら、もうクラフトビールに戻ってきてくれないんじゃないかな。 ビールって良い意味で雑に扱われていると思うんです。お店入って ”とりあえず生ちょうだい。” って、なんだか雑なものを頼むテンションで頼まれる飲み物って多分日本におけるビールだけだと思うんですよ。日本酒とかワインを”とりあえず日本酒、とりあえずワイン” って頼む人いないですよね。 大衆飲み屋からある程度高級な料亭でも、”とりあえずビール!”とか ”まずは生でいいよね!” とかすごい雑に使われるようなビールの文化がすごい好きなんですよ。ビールが “高級品をかしこまって飲むようなもの” である必要ないと思っていて。 今のクラフトビールの価格って、そんな ”とりあえずビール” 文化から遠ざけてしまうんじゃないかなって思っちゃうんです。色んなブルワリーが血のにじむような努力と研究を重ねて作り上げたクラフトビールを安物扱いする必要は全くないと思っていますが、今の価格より少し下がって、もう少し “雑に頼める価格帯” になるとクラフトビール業界の未来が明るくなるかなと思います。」
ビールの価格が高くなる主な要因として、原材料費、人件費、そして酒税が挙げられる。特に大量生産が難しい小規模ブルワリーではコストコントロールの余地が少なく、必然的にリテール価格が上がってしまう。そこに大手ビールメーカーが資本力を活かして低価格のクラフトビールを全国に大量に流通させ始めたことで、小規模ブルワリーの価格の高さが一層浮き彫りになっている現状も深刻だ。 しかし、小規模ブルワリーには大手にはない “機動力” がある。小ロットで新しいレシピを試し、高速でトライ&エラーを繰り返す能力は、小規模ブルワリーの大きな魅力であり強みである。その証拠に、小規模ブルワリーからは新商品が驚異的なスピードでリリースされ続けている。 このスピード感と新しいトレンドの醸成が、クラフトビール業界に新たな光を当てているのは間違いない。Mackendyの取り組みが、クラフトビール業界にどのような新しい風を吹き込むのか、今後も目が離せない。(Beerboy 編集部)